スナック眞緒物語#10


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スナック眞緒物語の時間です🕓


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カランコロン。
「あら、いらっしゃい」
お店のドアのベルが鳴り、スナック眞緒の店内に眞緒ママの甲高い声が鳴り響く。
入り口には目の下にクマを作った青年が俯きがちに立ち尽くしていた。
「あら、こちらへどうぞ」
バイトのまなもに促され、青年は足を引きずるようにしてカウンターの席に着く。
さりげなくテーブルに置かれたスムージーと、お水。グラスの中の氷がコロンと音を立てた。
 「それで、どうしたの? なんかうかない顔だけど」
眞緒ママが尋ねると、青年は俯いたまま口を開いた。
「……だ」
「え?」
「神様は不公平だ!俺はずっと甲子園を目指して、野球一筋でやってきた。なのに、この間の練習中に怪我で……もう、野球は出来ないって。女手一つで育ててくれてずっと応援してきてくれた母親にも、チームのみんなにも、なんて言っていいのかわからないよ。だれも俺の気持ちなんてわかってくれない。もう終わりだ」
 吐き捨てるように言う青年。スナック眞緒の店内は静まり返っていた。
 しかし、その静けさを破り、眞緒ママが明るい声で言う。
「なんだ。そんなこと」
「そんなことって!俺にとっては!!」
「だって、わからないもの、貴方の気持ち。あのね、人の気持ちを推し量ることは出来ても、理解することなんて出来ないのよ。」
眞緒ママはふと、スナック眞緒の店内に飾られた集合写真に目をやって、優しく微笑む。
「あのね、けやき坂46の柿崎芽実ちゃんって子が、初めてのツアーの千秋楽のリハーサル中に手首を骨折したの。センターも多かったし、きっと悔しかったわ。でもね、リハーサルも本番もずっとステージのみんなを見ていたの」
バイトのまなもも懐かしむように目を細めた。
「芽実さん、本当にずっと見ていて、それがどれだけ励みになったかってみなさん言ってましたよね」
「そうなのよ!あのね、自分がステージ、つまりマウンドに立つことが出来なくても裏から一緒に支えることはできるはずよ。もし貴方がチームのみんなを思うなら、そういう支え方もあるんじゃないかしら」
青年はハッと顔を上げる。店内の明かりを受けて、青年の瞳がキラキラと光った。
「おれ……出られないのは本当に悔しい、けど、それ以上にチームのみんなのことが好きだ!応援したい」
眞緒ママは嬉しそうに笑った。


「あ、眞緒ママ見てください!甲子園!」
地元ローカル紙の隅に小さく載っている記事。
そこにはあの青年の通う高校が甲子園に初出場と書いてある。
「私たちも頑張りましょうね!とりあえず……眞緒ママはスムージー作りをマスターしてください!」
「あー枝豆仕入れなくちゃ!」
「ちょっと聞こえないふりしないで下さいよ!」
眞緒ママとバイトのまなもがいつものようにはしゃぐ。その背後には、腕を吊った姿の柿崎芽実を囲むひらがなけやき全員の集合写真が飾られていた。


今日もスナック眞緒は大繁盛♪

原案:井口眞緒  文:宮田愛萌
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   スナック眞緒#10

気づいたら10回目の連載になっていました。
年内は残すところあと2本です。
これからもよろしくお願いいたします。